東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1933号 判決 1969年11月11日
控訴人
上村靖
代理人
橋本順
ほか二名
被控訴人
野沢文一郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、授用および認否は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
控訴代理人は、「主たる債務者はもし保証人の事前の求償に応じたくなければ民法四六一条二項により供託をなし、担保を供し、または保証人に免責を得せしめて右求償に応ずる義務を免れることができるものと解すべきであるとともに、その反面、保証人は同条一項により主たる債務者が求償金の支払をするまでは担保を供する義務を負わないものと解すべきであり、したがつて、主たる債務者は保証人の事前求償に対して担保の供与を求める抗弁権を有しないものといわなければならず、少なくとも本件のように、主たる債務者が倒産して無資力となりもはや債権者に対する二重払いの生ずるおそれがないと認められる場合には、主たる債務者は保証人の事前の求償に対して担保を供与すべき旨の抗弁権をもつて対抗することは許されないものといわなければならない。」と述べた。
理由
一本件についての当裁判所の事実認定およびこれにともなう判断は、次のとおり付加または訂正するほか、原判決がその理由中に説示したところと同一であるから、その記載<略>を引用する。
(一) <省略>
(二) 原判決五枚目―記録二〇丁―表五行目から同裏四行目までを次のとおり改める。
「そこで、控訴人主張の相殺の抗弁について判断する。控訴人が被控訴人の本訴請求債権と相殺の用に供する債権は、主たる債務者である訴外会社が弁済期を徒過したことにより、保証人である控訴人が民法四六〇条二号の規定に基づいて訴外会社に行使しうるにいたつた事前の求償債権であり、したがつて、控訴人はその後訴外会社から本訴請求権を譲り受けた被控訴人に対して右求償債権をもつて相殺の用に供しうるのではないかとの疑いがないでもない。しかし、保証人のこのような事前の求償権の行使に対しては、主たる債務者は、同法四六一条の規定により、債権者が全部の弁済を受けない間は、保証人をして担保を供与せしめる権利を有し、その担保の提供があるまで求償に応じないことができるものと解されるから、保証人の事前の求償債権は抗弁権の付着したものというべきであり、そして、このように抗弁権の付着した債権をもつて相殺の自働債権とすることは許されないところである。かりに主たる債務者が無資力であつたとしても、事前に求償を得た保証人がこれを他に流用する場合などにそなえて担保を提供せしめる必要は依然存するから、右の結論を左右するものではない。したがつて、控訴人の相殺の抗弁は採用するに足りない。
そうとすれば、控訴人は被控訴人に対し、金一五〇万円およびこれに対する昭和三九年三月二三日から同年一〇月二四日までは約定利息として、同月二五日から支払ずみにいたるまでは約定遅延損害金として、それぞれ金一〇〇円につき一日金三銭の割合による金員の支払をなすべき義務があるものといわなければならない。」
二よつて、被控訴人の本訴請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項に従つてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。(室伏壮一郎 園部秀信 森綱郎)